開いた屏風に溢れる魅力。
次世代へ受け継ぐ伝統技術
・片岡屏風店のモノづくり
開いた屏風に溢れる魅力。次
世代へ受け継ぐ伝統技術・片
岡屏風店のモノづくり

2019.06.13

東京スカイツリーがそびえ立ち、多くの観光客が天空を見上げる墨田区向島――そのシンボルの麓に、今では都内に一軒だけとなった“屏風専門店”があります。1946年(昭和21年)に創業した「片岡屏風店」は、この地で70年以上も脈々と営業を続けてきました。

片岡屏風店は、店名通り日本古来の屏風を扱うお店です。職人気質の古風な店構えかと思いきや、工房はビルの2階で、1階は「屏風博物館」としても多くの来訪者を集めるショールームになっていました。色とりどり、バラエティ豊富な屏風が並ぶ中、片岡屏風店2代目の片岡恭一さん、そして3代目の孝斗さんにお話を伺いました。

これまでの常識にとらわれない屏風のカタチ

ふだんの生活であまり触れることがない屏風。一体どこでどのように使われているのでしょうか。

孝斗 屏風は室内の調度品、装飾品として使われてきて、1300年以上の歴史を持っています。現代では……そうですね、みなさんが目にする機会が多いのは節句屏風、金屏風あたりでしょうか。お雛様や兜などの人形飾りには屏風がセットになっているものですし、金屏風は結婚式などのおめでたい席、芸能人の記者会見などでおなじみです。

快活な口調で現代の屏風事情を話す3代目・片岡孝斗さん(画像右)と、穏やかな表情で聞き、時折うなずく2代目・片岡恭一さん(画像左)

ーー現代屏風事情を説明してくれたのは3代目の孝斗さん。片岡屏風店の陣頭指揮は2代目の恭一さんが執っていますが、次代を担う3代目として、技術の継承、文化の発信に意欲的です。

節句屏風は人形飾り専門店に卸し、金屏風はホテルの式場などからオーダーを受けてきたそう。しかし、日本人のライフスタイルが洋風化するにつれ、和のインテリアパーツである屏風が活躍する機会は次第に少なくなってきています。

このままでは、屏風は生活の中から消え去り、美術品としてガラスケース越しに鑑賞するものになってしまう。そんな危機感から、現代に即したさまざまなスタイルを提案してきました。

5本のネクタイを屏風に仕上げた「オーダー屏風」。思い出をカタチにできる新しい屏風として人気を集めている

恭一 最近増えているのは、お客様の要望に合わせて仕上げる「オーダー屏風」。故人の形見の着物や帯、時にはネクタイを屏風に仕上げたり、家族の写真をファミリーヒストリーとして屏風にまとめたり、さまざまな要望に応えてきました。写真家や書家、画家などアーティストの方々からの依頼で、作品を屏風にするというケースも増えてきていますね。

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ーー2020年に控えた東京オリンピックのボクシング競技会場に、両国国技館が候補で挙がっていることを受け、ボクシングを盛り上げようと漫画『あしたのジョー』とコラボした屏風を作ったり、アクリルを素材に使ったり。はたまた、サウンドやアロマを取り入れ、視覚にとどまらない五感に訴える屏風を手掛けたことも。オファーのたびに屏風の可能性が広がっていきます。

ユーモアを交えながらこれまで受けたオーダーを明るく語る孝斗さん。その言葉の節々に熱い職人魂が垣間見えた

孝斗 オーダーを頂くお客様は、本当に多岐に渡りますね。外国の大使館の要人が「国に帰っても部屋の中で日本を感じたい」と屏風をオーダーされることも多いですし、変わったところでは……そうですね、ある飲食店から「VIPルームに飾りたいから、古めかしくて、だけどカッコよく目立つような屏風を」とオファーを頂いたこともありましたね(笑)。日本の美術館が持っている絵画は商用利用では許諾が下りませんから、海外の美術館のサイトからパブリックドメインになっている日本絵画のデータをダウンロード。派手でシックな屏風をきっちりと作りました。

ーーどんなユニークな依頼があっても、屏風というフォーマットに落とし込めるのは職人の確かな腕があってこそ。2代目・恭一さんは、モノづくり産業を振興する墨田区が認定する“マイスター”の一人です。このマイスターの定義は“墨田を代表するモノづくり技術を持つ職人”30数名しか認定されていないというから、文字通りのお“墨”付き。伝統の手仕事と柔軟なアイデアの融合が、さまざまな現代屏風として結実しています。ときに、ビル1階をショールームに改装し、屏風博物館にしたのも恭一さんの英断。気軽に屏風作りを体験できる教室を展開し、多くの来訪者を集めてきました。

恭一 スカイツリーの麓という好アクセスもあって、修学旅行生や海外からのお客様が多くいらっしゃいます。開くごとに4面の違った絵が顔をのぞかせる「からくり屏風」が喜ばれますね。

孝斗 やっぱり、屏風をカジュアルなものとして楽しんでもらいたいんです。屏風は触ってはいけない美術品ではなく、日常で親しまれてきたアイテム、ツールです。手で触って開いて、作ってみる……。そんな体験が広がれば、確実に次の世代にバトンをつないでいけるはずですから。

片岡屏風店1階に構える「屏風博物館」には、バラエティ豊富な屏風を一目見ようと多くの観光客が訪れる

ーータブレットを片手に話す孝斗さんは、海外からの観光客に英語で流暢にプレゼンテーション。インスタグラムでも英語を駆使して情報発信しています。では、この語学力は一体どこで身に付けたのでしょうか。孝斗さんの10~20代をプレイバックすると、3代目を継ぐことになったいきさつ、その想いが浮かび上がってきました。

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アメリカ・ボストンで気付いた屏風の魅力

孝斗 幼稚園の頃は「屏風屋になる!」と言っていたこともありますが、片岡屏風店を継ぐことを、職業としてしっかり考えたことはなかったんです。

ーーそう話す孝斗さんですが、高校生の時にアメリカ・ボストンに短期留学したことから、自らのバックボーンである「屏風店」を強く意識するようになります。

孝斗 ボストンでは非ネイティブスピーカー向けの語学学校に通っていました。そこでさまざまな国の生徒と話して気付いたのが、皆、自国のカルチャーやトラディショナルなものに強く誇りを持っている、ということです。一方、自分はどうかと言うと、日本の歴史、文化について語れと言われても、なかなかうまく説明することができなかったんです。そんなショックを抱えて帰国すると……なんだ、うちは屏風屋だったじゃないですか(笑)。これもある意味、日本の文化を象徴するものです。屏風屋に生まれるということもそうそうないでしょう。だったら、その立場を思いっきり生かすのもありなんじゃないか?と考え始めたんです。屏風を通して日本の誇り、アイデンティティを発信していけたら、こんなに素晴らしいことはない。そう思って、3代目を継がせてほしい、と父に伝えました。

ーー意外にも、恭一さんから「3代目を継いでほしい」と言われたことはありませんでした。それは恭一さん自身と初代の関係性とも同じだったそうです。

屏風の新たな可能性を信じて家業を受け継いだ2代目・恭一さん。その意志と技術は3代目・孝斗さんにしっかりと受け継がれている

恭一 もともと、終戦直後に創業した初代は屏風屋をやるつもりはなかったんです。しかし、焼け野原で何もなくなった向島で兄弟の仕事を継ぐことになり、片岡屏風店を起こしました。だからこそ、私には常々「2代目なんて継がなくていい。やりたい仕事を見つけ、自分で選び取ればいい」と言っていたんです。当時、屏風市場は既に縮小しつつあり、廃業する専門店も出てきていました。しかし私は、「金屏風やお雛様の屏風は脇役、引き立て役だけど、違う表現で屏風を主役にできるんじゃないか」と考え、新たな屏風を作って提案していきたいと考えたんです。孝斗も、やりたいこと、表現したいことを屏風に見つけ、継ぎたいと言ってくれた。2代目としても、親としてもうれしいことでしたよ。

ーーこうして家業承継を決めた孝斗さんは、大学卒業後に再びボストンに渡ります。3代目として見聞を広めるため、そして屏風の魅力をグローバルに伝える力を身に付けるため。1年間の長期留学で英語漬けの日々を送り、英語スキル、コミュニケーション力を磨きました。

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新たな時代に、屏風のまだ見ぬ一面を開いて

孝斗さんが帰国し、片岡屏風店に参画した2012年(平成24年)に、ちょうど東京スカイツリーが開業。内外から観光客が集まる中、屏風博物館として情報を発信し、ネットを通してさまざまなオーダー屏風を手掛け、企業とのコラボも多数。片岡屏風店は時代と並走しながら、屏風の新たな可能性を模索してきました。3代目・孝斗さんが見据えるのは「次世代への承継」です。

“産業構造そのものを受け継ぐ”と笑顔で語る孝斗さん。意識改革の大切さと、伝統を次世代へ受け継ぎたいという想いに溢れたキーワードだ

孝斗 手作業で木枠を作り、屏風をつなげる和紙の蝶番を付け、何枚も和紙を貼り付け、枠同士を組み合わせて表面の本紙を貼る。これが屏風作りの簡単なプロセスです。一つひとつが手作業ですから、職人技を受け継ぎ、伝えていくことが大事です。しかしそれだけでなく、屏風という文化を守っていくためには、産業をもっと俯瞰して考えなければいけません。木枠や和紙などの資材も伝統的な産業ですから、その供給先が途絶えてしまったら、僕たちもモノづくりはできないですから……。それは供給先、販売先も同じです。ビジネスワードで言うならサプライチェーンを構築することが不可欠。片岡屏風店だけではなく、屏風を取り巻く“産業構造そのものを僕たちで受け継ぐ”という意識を伝えていければと思います。

ーー工房には80代のベテラン職人もどっしりと構えますが、近年は美大、デザイン専門学校からの新卒採用にも積極的。20代のスタッフ3人を含めて11人という陣容で屏風作りに打ち込んでいます。

6ヵ国語の「ありがとう」が記された屏風型のウェルカムボード。グローバルな視点で未来を見据える片岡屏風店の温かみに溢れていた

孝斗 2代目の父はさまざまな屏風のスタイルを提案し、匠の技でも存在感を発揮しています。僕はというとアメリカで伝統の大切さ、重さに気付きました。だから、屏風が持つ文化的・精神的側面も伝えていければと思っています。ソーシャルメディアを媒体にして情報を発信し、博物館を通して生のコミュニケーションで面白さ、魅力を伝えていく。そして、いろんな世代、国籍、文化を持つ人たちに、屏風をよりカジュアルに、手触りのあるものとして届けていく。その先に、屏風の新たなステージが見えてくると考えています。

ーー屏風シーンに新風を吹き込んだ2代目の背中を追って――令和の時代を走る3代目は、今後、屏風をどのような新しい姿に変えて見せてくれるのか、切望してやみません。

取材協力=片岡恭一・孝斗(片岡屏風店)

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