「お笑い」と聞いて、皆さんは何を思い浮かべますか? 漫才、コント、モノマネなど、テレビによく出ているお笑い芸人を想像するかもしれません。そんな数あるお笑いの中でも、“話芸”としての歴史が古く、伝統芸能としての側面も持ち合わせているのが「落語」です。
落語の歴史は、室町時代末期から安土桃山時代にさかのぼります。主君との雑談に応じたり、自らの経験などを話したりした御伽衆(おとぎしゅう)がそのルーツ。その後、5代将軍綱吉の治世では、京の「露の五郎兵衛」、大阪の「米沢彦八」、江戸の「鹿野武左衛門」などが、不特定多数の聴衆に有料で噺(はなし)を聞かせるようになりました。彼らは落語家の祖といわれています。
江戸時代に隆盛と衰退を繰り返しながら、徐々に浸透していった落語。この頃は、「落とし噺」や「軽口噺」と称されていましたが、次第に三味線などの鳴り物が入る「芝居噺」や「怪談噺」など、さまざまな種類が生まれました。明治になると、正式に落語と呼ばれるようになり、大正から昭和初期にかけてはラジオ、戦後はテレビの発展とともに、令和の現在まで廃ることなく受け継がれています。
では、そんな古い歴史を持つ落語の魅力に迫ってみましょう。
親しみやすい伝統芸能「落語」
落語は、ここ数年でブームといわれるほどの盛り上がりを見せています。ドラマや漫画の題材にもなり、若い世代のファンが急増。落語家の数も増え、一般社団法人 落語協会に登録されている真打(江戸落語における実力のある落語家のこと)は200人以上もいます。落語を披露する場の間口も広がり、居酒屋やカフェなどでも落語会が開催されるようになってきました。また、定額制の動画・音楽配信サービスなどでも名人の演目が配信されており、隠れた人気コンテンツとなっています。
とはいえ、割合でいえば、実際に生で落語を聞いたことがある人はまだまだ少ないかもしれません。特に「寄席」に足を運ぶとなると、さらにハードルが高いのではないでしょうか。
その理由は、「お笑いとはいえ、伝統芸能だから少し難しそう」とか「寄席の仕組みがわからない」などといったもの。しかし落語は、歌舞伎や能と比べれば内容も分かりやすく、初心者でも楽しみやすい娯楽と言えます。笑えるだけでなく、江戸の文化や粋な振る舞い、なにより、人情の機微に触れることができる、まさに大人の趣味なのです。
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親しみやすい寄席の“緩さ”
寄席とは、落語だけでなく、漫才や講談、浪曲、手品など、いわゆる大衆芸能を演じる劇場。東京ではほとんどの寄席が落語を中心に出演プログラムを構成しています。余談ですが、寄席の看板やポスターでは、落語と講談は黒字で、それ以外の芸は朱字で記すという伝統もありました。いわゆる「イロモノ」とはここからきた言葉なのです。
寄席の中でも、365日いつでも落語を聞けるのが「落語定席」。東京では、上野の「鈴本演芸場」、浅草の「浅草演芸ホール」、新宿の「新宿末廣亭」、池袋の「池袋演芸場」の4つ。関西では、大阪の「天満天神繁昌亭」、大阪の「動楽亭」、神戸の「神戸新開地・喜楽館」があります。

寄席の出演者や内容は、毎月1日〜10日の「上席」、11日〜20日の「中席」、21日〜30日の「下席」ごとに入れ替わります。最初は、自分が知っているか、名前を聞いたことがある落語家が出演する席を選ぶといいでしょう。寄席の良いところは、一度入ったら一日中楽しめること。12:00前から始まる「昼の部」と17:00頃から始まる「夜の部」に分かれてはいますが、入れ替え制ではありません。木戸銭(入場料)は寄席によって異なりますが、一般で2,500〜3,000円ほどです。寄席によってはシニア料金や学生料金を設定しているところもあります。
ちなみに、12:00前や17:00頃というアバウトな時間設定なのは、講演や演目などによって時間が変わるから。また、寄席には前売り券や席の予約もほとんどありません。入れ替えがなかったり、時間がキッチリしていなかったり、フラッと立ち寄れたり……こういった緩さも、落語の魅力の一つです。
緩さでいえば、演目の決め方もその一つ。「どうせなら知っている噺を聞きたい!」と思うかもしれませんが、ほかの演者と被らないようにしたり、客層をみて決めたりするので、演目は当日まで未定なのだそう。
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さて、肝心の落語ですが、大きく2つの分け方があります。一つは、上方落語と江戸落語という東西の分け方。上方落語は上方、つまり関西の落語。江戸落語は、文字通り江戸の落語のことです。
上方落語は、江戸落語よりも“笑わせること”に重点を置いて、陽気で派手な演出が多いといわれています。三味線や鳴り物が入る「ハメモノ入り」の落語が多く、小拍子(こびょうし)という拍子木で音を出すのも特徴の一つです。一方、江戸落語で使う小道具は扇子と手ぬぐいのみ。演目も人情の目には見えない心の微妙な動きなどをしっかり聞かせる噺が好まれます。同じ噺でも、上方落語と江戸落語では、オチ(サゲとも呼ばれます)が違っていることがあります。

もう一つは、古典落語と新作(創作)落語の分け方。例えば、江戸時代からある「時そば」「寿限無」「目黒のさんま」などは、文句なしの古典落語。新作(創作)落語は、比較的新しい噺や落語家が自ら考えた噺のことを指します。大正以前の噺は古典、大正から昭和初期以降の噺は新作とすることが多いようですが、人によっては、戦前の噺は古典落語に分類するという考え方もあります。
ただ、故・古今亭今輔師匠の「古典落語も、できたときは新作でした」という名言もあるので、あまり古典・新作にとらわれず、お笑いのルーツ“落語”として楽しむのが正しいのかもしれません。
細かい区分は他にもたくさんあります。噺の種類によって、滑稽噺、人情噺、怪談噺、芝居噺などがありますが、このあたりは、落語にのめり込むにつれ、徐々に覚えていくとよいでしょう。
落語が始まると、まずは「マクラ」と呼ばれる導入の噺が始まります。軽い小噺や世間話で雰囲気をつくるのです。そこから、本題に入り、最後にオチという流れ。この間、基本的には、落語家の言葉と表情、扇子や手ぬぐいを使った身振り手振りだけで世界観を表現していきます。なんの助けも借りず、観客の想像力を最大限に高める。この名人芸も、落語の楽しさの一つ。こればかりは音声だけでは伝わらないので、ぜひ生で見てみてくださいね。
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“学べる笑い”を求めて
落語の演目は数百ともいわれています。多くの落語家が演じている共通の演目でも100以上。その中でも有名な演目は映画やドラマの題材にもなっているので、聞けばすぐに分かることでしょう。初めての落語なら、しっかりとオチのある滑稽噺が入りやすいかもしれません。ストーリーが有名な「時そば」「まんじゅう怖い」「寿限無」「芝浜」あたりがおすすめです。
ただ面白く笑えるだけでなく、日本人の持つ心の機微や情緒、江戸文化を知ることができる落語。人生経験を積み、大人になってから触れると、より感慨深い感想を得られることでしょう。
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