裁きの歴史から大衆の学び
舎へ。格調高い赤煉瓦建築
「名古屋市市政資料館」
裁きの歴史から大衆の学び舎
へ。格調高い赤煉瓦建築「名
古屋市市政資料館」

2019.05.09

中世には信長・秀吉・家康という戦国三英傑を輩出し、近代には食器や自動車などの機械工業の発展で栄えてきた愛知県。現代でも名古屋市が東海地方のコア都市として活気ある文化、経済を牽引しています。

それは建築シーンでも同様で、明治~大正期には多くの優れた近代建築が誕生しました。しかし、明治の濃尾大震災や太平洋戦争、戦後の再開発などにより、かなりの建築物は失われてしまいました。そうした流れの中で、東海地方の近現代建築の代表格が、今も頼もしく立ち続けています。それが、今回ご紹介する「名古屋市市政資料館」です。

重要文化財であり、市民に親しまれている赤煉瓦造りの建物は、鮮やかで存在感がありつつも、どこか優しげに見る者を魅了します。司法の中心として建設され、現在は観光やカルチャー、エンターテインメントにまつわるスポットとして後半生をおくる名古屋市市政資料館をクローズアップしてみましょう。

司法の中心として誕生した名古屋市市政資料館

名古屋市市政資料館が誕生したのは約1世紀前、1922年(大正11年)のこと。もともとは控訴院、地方裁判所、区裁判所の機能を備えた建物として建築されました。控訴院は現在の高等裁判所に当たるもの。1889年(明治22年)に発布された大日本帝国憲法にのっとって全国8ヵ所に設置されていますが、現存する最古の庁舎が、この名古屋市市政資料館なのです。

荘厳な外観は、司法の中心施設にふさわしい威容を誇ります。かつて裁判所として機能していた時代に思いをはせつつ、外観にフォーカスしてみましょう。まず目を引くのは、ドームを頂く塔屋と、大きく突出した車寄せ。スクエアな寄棟屋根の建物を左右に置き、対称にレイアウトしています。中央を強く強調しながら、両サイドを引き締めたバランスは見事。正面から望むと、その格調が伝わってくるはずです。

計算し尽くされたネオ・バロック様式が美しい外観。見事な“色のカルテット”が落ち着きと華やかさを両立する

しかし、いかめしい印象はなく、どこか華やかなロマンを感じさせるのは、赤煉瓦、白い花崗岩、黒いスレート屋根、緑の銅板が絶妙にマッチングしているからでしょうか。この色彩の華やかさはネオ・バロック様式の特徴。シックでありながら人間味を感じさせるのは、赤煉瓦建築ならではの特色です。

罪を裁く裁判所から大衆のための資料館へ

中部地方の司法の中心として機能してきたこの建物にも、歴史の転換点が訪れます。1979年(昭和54年)、名古屋高等・地方裁判所が中区三の丸一丁目に移転したことをきっかけに、裁判所としての役目を静かに終えることになりました。

しかし、華やかで歴史ある建築物を名古屋っ子が放っておくわけがありません。「名古屋の貴重な文化遺産として後世に残したい」という市民の声がいつしか高まっていき、名古屋市もその心意気に応えます。1984年(昭和59年)には国の重要文化財の指定を受け、国や県の支援を受けて建物の保存・復原修理工事が行なわれます。そして、1989年(平成元年)に名古屋市市政資料館として再スタートを切ることになったのです。

資料館という名前の通り、「歴史資料として重要な公文書等を保存し、利用に供する」のが再生した建物の役割。名古屋市政が始まってからの公文書が保存されており、名古屋の記録・記憶をとどめるアーカイブとしての役割を果たしています。

館内に入り、歴史を感じる設備に注目してみましょう。1階には留置場があり、控訴院法廷や陪審法廷など、裁判所時代の厳格な空気が伝わってくる部屋が見学できます。ちなみに入場は無料です。

そして、最も注目したいのがネオ・バロック様式の魅力がいかんなく発揮されている中央階段室です。2階から3階にかけて吹き抜けになっており、茶色と黄色のツートンカラーの化粧柱がズラリと並び、要所に配された大理石の柱も重厚な存在感を発揮。迫力あるスケールが入館者を圧倒します。

調和のとれたデザインにおもわず息をのむ中央階段室。ステンドグラスから差し込む光が、どこか日常の温もりを添えてくれる

階段を上ると、正面には光を通して輝くステンドグラスが。中世の教会を訪れたかのような錯覚に陥りますが、実はここにも歴史のディテールが施されています。ステンドグラスの左右を走る桟の下、白い球体のようなモチーフが目に留まりますが、これは「罪と罰」の象徴。罪を犯したものには罰が与えられる。公正・公平な裁判が行なわれる場であることを暗に示しているのです。

名古屋の歴史を後世に受け継ぐシンボルとして

歴史と建築美が体感できるスポットとして、名古屋市はカルチャーロード「文化のみち」の起点にこの建物を位置づけました。しかし、公文書館や見学スポットにとどめないのは名古屋らしさなのでしょうか。

中央階段室は、その空間美から「坂の上の雲」「華麗なる一族」といったテレビドラマの撮影にも使われてきましたし、実は「人前結婚式(シビル・ウエディング)ができるスポット」としても知られています。“文書を保存する”、“施設を見学・鑑賞する”だけではなく、ロケや結婚式に“利用できる”現役の建物でもあるのです。

大正に誕生し、昭和に司法の中心として働き続け、平成に資料館として生まれ変わった建物は令和の時代になっても名古屋建築のフロントランナーであり続けています。

豊かな歴史的バックグラウンドを持ちながら、市民の集いの場としても機能する名古屋市市政資料館。荘厳な赤煉瓦建築、そして上質な空間美は、訪れるものを惹き付けてやみません。

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