〝義侠の相場師〟が夢に見
た大阪市民のための赤煉瓦
建築「大阪市中央公会堂」
〝義侠の相場師〟が夢に見た
大阪市民のための赤煉瓦建築
「大阪市中央公会堂」

2019.03.29

堂島川と土佐堀川に挟まれた中之島は、水都大阪のシンボルとも言えるスポット。江戸時代は諸藩の蔵屋敷が並び、明治維新後は大阪市庁舎をはじめとする近代建築が建てられてきました。

このエリアで、今なお市民に親しまれているのが「大阪市中央公会堂」。赤煉瓦と白い花崗岩によるコントラストは遠目からも存在感を発揮しますが、その建築造形は圧巻の一言です。正面から見ると、デコラティブなドームの塔屋を左右に頂く、壮大な半円アーチを支える4本のジャイアント・オーダーは壮麗にして優雅。大阪カルチャーの発信地にふさわしい威容を誇っています。

市民のための公会堂として100年もの時を刻んできた歴史を振り返り、この建築が持つ重厚な魅力を探ってみましょう。

慈善事業として計画された「大阪市中央公会堂」

この公会堂建設が始まったのは1911年(明治44年)のこと。株取引で利益を得た株式仲買人で、〝義侠の相場師〟とも呼ばれた岩本栄之助が大阪市に100万円を寄付したことから始まります。

岩本が現在の貨幣価値にして数十億円ともいわれる巨額を寄付した背景には、彼が「渡米実業団」に参加し、アメリカで見聞を広めたことにあるといわれています。かの地の実業家たちが財産、遺産を慈善事業、公共事業に惜しげもなく投じる姿に強い感銘を受けた岩本は、自らも社会に貢献したいとの想いを強めていったのです。

この公会堂の隣には大阪府立中之島図書館(重要文化財)があり、大阪市役所も隣接しています。市庁舎・図書館・公会堂という近代市民社会の3点セットが、近代建築の粋を集めて建てられました。アメリカの先進的な文化支援、社会支援のあり方に影響を受けた岩本の想いは、このロケーションにも反映されているのです。

桜に映える近代市民社会の3点セット。大阪市中央公会堂(画像左)、大阪府立中之島図書館(画面中央)、大阪市役所(画像右)

建設が決まったら、次は設計です。この公会堂の設計者は、当時の日本では珍しくコンペティションによって選ばれました。日本有数の建築家が設計案を提出する中、選ばれたのは応募者の中でも最年少、20代の岡田信一郎です。

岡田の原案を基に、同じく赤煉瓦で知られる東京駅舎を設計した辰野金吾の「辰野片岡事務所」がトータルのデザインを取りまとめています。この公会堂は東京の明治生命館、鳩山会館などを手がけた岡田信一郎の出世作になりましたが、辰野金吾のアイデアも加味されたことで、大正期の建築ながら明治近代建築の集大成といえる設計になったと言えるでしょう。

起工は1913年(大正2年)で、竣工したのは1918年(大正7年)。第一次世界大戦の影響でヨーロッパからの鋼材輸入が滞るというトラブルもありましたし、1916年(大正5年)には寄付者である岩本栄之助が株取引に失敗し、ピストルで自害を図るという悲劇もありました。

岩本は公会堂の対岸にある病院に運びこまれ、生死の境をさまようこと5日間。工事の様子が見える病室で息を引き取ったといいます。実に享年39歳という若さでした。

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“義侠の相場師”岩本栄之助の意志を受け継いで

岩本栄之助が大阪に花咲く文化を夢見た公会堂は、彼の死から2年の時を経て竣工。大・中・小の集会室、貴賓室(現在の特別室)、食堂などを備え、文字通り大阪のアート、カルチャーの一大拠点に。ヘレン・ケラーやガガーリン、ゴルバチョフなど、多くの著名人の講演会、国内外のアーティストによる音楽会、演劇が行なわれてきました。

そんな公会堂も、1970年代には都市計画によって建て替えの危機に見舞われたこともありました。しかし、そこに立ち上がったのが大阪市民や建築家たち。「中之島をまもる会」を結成し、公会堂をはじめとする中之島一帯の歴史的景観を守ろうと保存運動を繰り広げます。

岩本栄之助の志を継ぐかのようなムーブメントもあり、公会堂は保存が決定。1999~2002年にかけて免震やバリアフリーなどを考慮した保存・再生工事も行なわれ、21世紀に続く公会堂として生まれ変わりました。

戦時中に供出されたままだった正面大アーチ上の「ミネルヴァとメルクリウス」の彫刻も復原されるなど、創建当初のディテールも輝きを取り戻しています。

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親しみやすい重要文化財としての現在

創建からの歴史をプレイバックしつつ、あらためて公会堂の姿にフォーカスしてみましょう。正面は東に向き、難波橋や生駒山を望みます。川の水面、木々の緑に映えるネオルネッサンス様式の外観が目を奪いますが、ぜひ南側、大阪の旧市街、船場に面した一角からも眺めてみてください。優雅な屋根のフォルムもまた、必見なのです。

内部に足を進めると、メインスポットはやはり1、2階に広大なスペースを確保した大集会室。正面にはプロセニアムアーチ(観客席から見る舞台が額縁のように区切られた構造物)が回る舞台をしつらえ、2階はバルコニー席が。天井には幾灯ものシャンデリアが輝きます。

白を基調とした気品の高い大集会室。まるで金の額縁に飾られた絵画のようなプロセニアムアーチの存在感が美しい

3階の特別室も見逃せません。天井には日本絵画「天地開闢(てんちかいびゃく)」が描かれており、神々しさが伝わってきます。壮麗な外観から一転して、和の荘厳な雰囲気を醸し出す天井絵。この和洋のミックスぶりもまた、公会堂の見どころの一つと言えるでしょう。

外観、内観とも息を呑むほどの技巧が凝らされていることがわかります。岩本栄之助の志と悲劇、そして市民たちの熱気――その全てのストーリーを見守り、公会堂は静かに立ち続けてきました。

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そう、この大阪市中央公会堂は決して歴史の一コマにとどまる建築物ではありません。国の重要文化財でありながら、市民のための貸スペースとして今なお利用され続けている現役の施設なのです。

明治の息吹を残しながら大正に竣工し、昭和~平成に至るまで大阪カルチャーのセンタースポットとして親しまれてきた公会堂。今後も、中之島のシンボルとして、大阪のシンボルとして、変わることなくその赤煉瓦の荘厳な姿を見せていってくれることでしょう。

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