靴と向き合い、ともに歩む
。靴修理の〝救世主〟がつ
なぐ村上塁のモノづくり
靴と向き合い、ともに歩む。
靴修理の〝救世主〟がつなぐ
村上塁のモノづくり

2019.03.29

1961年(昭和36年)、神奈川県横浜市・反町駅から少し離れた閑静な商店街に創業した「ハドソン靴店」。初代店主・佐藤正利さんは吉田茂元首相や石原裕次郎氏をはじめ多くの著名人の靴を手掛けた職人として知られています。2代目店主・村上塁(むらかみ・るい)さんの元には、他店で修理を断られてしまった靴たちが集まります。

新品には代えられない、思い出の詰まった靴に再び命を吹き込む村上さん。そんな“靴修理”というモノづくりに対する信条や大事にしている理念を伺いました。

「底付け」の手仕事に魅せられ、初代店主・佐藤正利に師事

ドレスシューズの手縫いの技術に興味をもった村上さんは、24歳の時に靴製造の専門学校に入学します。一口に靴職人といっても、製造工程により、さらに5、6つほどの職種に細分化されるといいます。その中で、村上さんが深くのめり込んだのが「底付け」といわれるジャンルです。

ハドソン靴店 2代目店主・村上塁さん。初代店主・佐藤正利さんとの出会い、靴修理に込める想いや熱意を穏やかな口調で語ってくれた

専門学校在学中にハドソン靴店の初代店主・佐藤正利さんと出会い、底付けの技術をとことん学びたいという想いから、ハドソン靴店で佐藤さんに約2年間師事した村上さん。佐藤さんを含めた3名の「底付け師」に師事し、知識と技術を高めていきました。その後、27歳の時、東京都浅草の紳士靴メーカーに就職しました。

浅草で勤務を始める少し前、佐藤さんの次の底付け師・関信義(せき・のぶよし)さんに師事していたときのこと。村上さんのもとに佐藤さんの訃報が舞い込みます。そのとき、佐藤さんの奥様から「ハドソン靴店を継いでほしい」と告げられました。

その言葉に、独立を決意した村上さん。2011年、後輩とともにハドソン靴店を再開することになったのですが、最初から順風満帆というわけにはいきませんでした。

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一生モノの靴に責任をもつということ

村上 正直、「先代(佐藤さん)のお客様がいるから大丈夫じゃないか」という甘い考えがあったことは否定できません。ですが、先代と一緒に歩んできたお客様は年配の方が多く、なかなかお店に足を運んでいただくことは難しかったのです。再開した当初は、1週間に1足の依頼が来るかどうかという状況でした。

靴修理の一番の基本となる「革包丁」。毎朝1本1本丁寧に研ぐことから仕事が始まる“命”とも言える道具だ

ーー靴の修理業界は「立地9割・腕1割」といわれているほど競争の激しい世界。村上さんが佐藤さんに師事していた頃から、駅からやや離れたシャッター商店街という立地も影響してか、少しずつ客足は遠のいていたのです。「普通の街の靴屋さん」では生き残れないと考えた村上さんは、自分の「製造の技術」を生かした「靴の修理」をサービスの中心に据えることを決意しました。

村上 そもそも、靴の製造と修理の技術はまったくの別物です。同じ靴でも、製造ではきれいな部材を使って型通りに施工していきますが、修理の場合は履く人の年齢や好み、TPOを考慮して施工しなければなりません。若い方であれば、靴底は減りにくい素材が好まれますし、筋力の弱い年配の方であれば軽い素材を、といった提案も必要になります。オールソール(靴底の交換)以外の修理はほぼ独学で、何万足もの靴を修理してこの腕に叩きこんできました。

ーーそして今、ハドソン靴店には、日本全国、ときには海を越えて、ベルギーやフランスからも修理の依頼が来るそうです。村上さんは棚に並ぶ黒いブーツを指差し、エピソードを話してくれました。

村上 このブーツは、車椅子を利用されている方の物で、もう12年以上も履き続けられている靴です。この方は運動神経、感覚神経、自律神経という3つの神経のうち、足の運動神経が機能しません。そのため、足を動かすことができないから冷えてしまうんですよ。痛みや寒さといった感覚はあるので、厚手の靴下を履いてその上からこのブーツを履くんです。そうするとどうしても既成の足幅では窮屈になってしまいます。それに、私たちが何気なくできるファスナーの上げ下げも、通常の取っ手状のものだと掴みづらく、かなりやりづらい。思わぬところに改善の余地があったんです。そのため、ファスナーの取っ手を指で引っ掛けられるよう輪っか状のものを取り寄せたり、ファスナーの幅を大きく取るように変えたりと履きやすさを考えて修理しました。このお客様との最初の接客では1、2時間ほど話をしましたが、お客様に僕の技術を信頼いただき、ひとつ解決するたびに新たな注文をいただいてきました。僕もお客様の好みを把握できるようになると、徐々にコミュニケーションも円滑になっていきましたね。

何度もオーダーを受け、そのたびに想いを込めて修理を施したブーツ。ファスナーの幅を大きく変えるなど履きやすさにこだわった一足

ーーハイブランドの靴修理は、基本的に製造ラインではなく、別の修理部門か外注先が担います。ところが、どちらも修理担当者からはお客様の顔が見えないため、ときに妥協したクオリティで手元に戻ってくることもあるのだそう。そのような事情から村上さんの確かな腕を見込んで依頼をするお客様も多いといいます。

他店で修理を「断られた」「失敗された」などのトラウマを抱えたお客様が、最後の砦として訪れるハドソン靴店。靴の状態・部材・お客様の要望を詳しく聞き、画像や実物を見てから見積もりを出すそうです。そこには、お客様の思い出が詰まった「一生ものの靴」と向き合う村上さんの真摯な姿勢が感じられます。

革包丁でソールの角をとる作業。しっかりと研がれた刃先で手際よく削いでいく

村上 あくまでも「履く人」あっての靴なので、お客様が満足いく仕上がりをとことん追求します。それに、靴はほかの革製品よりもちょっとしたサイズの違いが履き心地に影響しやすいため、一生ものの靴に出会える機会はなかなかありません。そんな大切な一足を僕に託してくれるのだから、丁寧に向き合いたい。この発想に至ったのも、先代の接客風景や、先代を含めこれまで師事してきた方々から学んだ技術があってこそ。ひとつでも欠けたら今のハドソン靴店はないと思っています。

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引き継いだ“伝統”に新たな“想い”をプラスする

ハドソン靴店で製造技術を生かした靴の修理を手がける村上さんは、新たな試みに乗り出しています。

村上 専門学校時代の仲間と、パターンオーダーシューズのショップ「HUDSONS(ハドソンズ)」をオープンする予定です。マンションの1室をリノベーションした完全予約制のラグジュアリーな空間で、その空間設計は「German Design Award(2019)」や「JCD Design Award(2018)」で賞をいただきました。お客様へのヒアリングは、コーヒーを飲みながらじっくりしたいと考えています。靴をオーダーする時間を、お客様にとって特別なひとときにしたいんです。

ーー「HUDSONS」で靴をオーダーする時間から始まり、実際に履いて足になじませる時間、長く履けるようハドソン靴店でメンテナンスをする時間まで。人に寄り添いまさに“共に歩む”ようなモノづくりに挑戦する職人・村上さん。そんな村上さんですが、近年の「職人」という言葉の定義について、疑問を抱いているそうです。

「職人は生き方そのもの」と語る村上さん。その凛々しい顔つきから“職人”として生きる村上さん自身の情熱と確信が垣間見えた

村上 職人って、生き方そのものを指す言葉だと思うんですよ。昨今、職人という言葉が安売りされているような印象を受けます。伝統的な技術をそのまま引き継ぐだけで満足していたら、いつの間にか時代に置いていかれて停滞してしまう。それこそ、先代のときにやっていた紳士靴の手仕事っていうのは、当時の最新の技術だったんですよ。そういった意味では、「HUDSONS」では、先代の想いを引き継ぎつつ、僕の想いをプラスした試みといえます。

【ワンルームが1LDKになる新プラン】

ーー今後は、ハドソン靴店で村上さんが靴の修理を続け、「HUDSONS」で仲間がパターンオーダーシューズの販売を担当するそうです。パターンオーダーシューズのお店を開いてもなお、靴修理を続ける理由を村上さんは生き生きと話します。

村上 見た目は似ていても、全てひもといて中の構造を見てみると、あらゆる靴のブランドの試行錯誤が見えてくるんです。そういったものを取り入れる意味でも修理はやめられませんし、とにかく楽しいんです。ミュージシャンに例えるなら、ハドソン靴店(修理)は“ライブ”で、「HUDSONS」(製造)は表現を込める“CD”です(笑)。

取材中にも常連のお客様が声を掛ける「ハドソン靴店」。その店舗から漏れ出る光が、街に温かい輝きを灯し続けていた

いずれは、後継者の育成にも取り組みたいと語る村上さん。伝統的で新しい、“職人”のモノづくりには、一歩一歩未来へと着実に歩む、人を想う熱意と真心がありました。

取材協力=村上塁(ハドソン靴店)

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