日本の伝統芸能「歌舞伎」。著名な歌舞伎俳優や演目の名を聞けば、なんとなく知っているという人は多いことでしょう。一方で、「難しそう」とか「高尚な感じがする」といったイメージから、実際に観劇したことがある人は少ないかもしれません。
東京都・銀座と築地の間にどっしりと構える「歌舞伎座」。歴史を感じるその建物は、幾度もの改修が重ねられ、平成25年(2013年)に現在のビルと併設したモダンで荘厳な外観に。「本物」を知る大人たちがひいきの役者目当てに足を運ぶだけでなく、最近では、日本文化を知りたい外国人観光客や歌舞伎初心者の姿も多く目にします。
今回は、初心者でも楽しめる「歌舞伎」の魅力についてご紹介します。まずは、歴史を知ることから始めましょう。
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大衆演劇「歌舞伎」の始まり
「慶長八年四月条 此頃、かふき躍と云う事有り、是は出雲神子女 名は国、但し好女に非ず 仕り出で、京都へ上る。縦ば異風なる男のまねをして、刀・脇指・衣装以下殊相異、彼男茶屋の女と戯る体有難したり。」
これは、歴史書である『当代記』に記された一文です。簡単に意訳すると、「慶長8年(1603年)の4月頃、かぶき踊りというものがあった。出雲の巫女である国という女性が、京都で異風な男のまねをして刀などを差して踊った」といった内容。
歌舞伎の始祖といわれる「出雲阿国(いずものおくに)」に関する描写です。異風な男とは、傾奇者(かぶきもの:封建的な社会に反発し、奇抜な言動や、目立つ衣装を身に着けることを好む者)。“傾奇者のまね”をして踊ったので、“かぶき踊り”と称されたのでした。

時は流れ元禄年間(1688〜1704年)。幕府も認めた大衆演劇として男性が全ての役を演じる現代に続く歌舞伎が生まれます。江戸には初代市川團十郎、上方(京都・大阪)には、初代坂田藤十郎が登場したのです。ご存じの通り、今でも続く名跡です。武士の街である江戸では荒々しい「荒事」が、長らく日本の中心として伝統文化を育んできた上方では優美な「和事」が好まれたといいます。
その後、町人文化が花開いた文化文政の時代(1804〜1830年)には、歌舞伎が庶民の娯楽として定着。鶴屋南北の「東海道四谷怪談」などが人気を博しました。この頃には、松本幸四郎や尾上菊五郎といった、現在も活躍する名跡が多く登場します。
天保11年(1840年)には、7代目市川團十郎が、市川家のお家芸として「暫(しばらく)」から「景清(かげきよ)」までの18の演目を定めた「歌舞伎十八番」を制定。5代目および6代目尾上菊五郎も、尾上家のお家芸として「土蜘(つちぐも)」から「身替座禅(みがわりざぜん)」までの10の演目を定めた「新古演劇十種(しんこえんげきじっしゅ)」を制定します。この頃から、いわゆる“お家芸”が生まれてきました。
その後、幕末、明治を経て、大正、昭和と伝統を守りつつも時代に合わせて演じ続けられた歌舞伎。戦後の一時期はGHQによる主要演目の上演禁止など存亡の危機に立たされたこともありましたが、それも乗り越え現代へと至ります。
歌舞伎はもともと、庶民の娯楽だったことがわかります。肩肘を張る必要はまったくないのです。気軽な気持ちで劇場に足を運んでみましょう。
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歌舞伎座で観劇する「時代物」と「世話物」
歌舞伎といえば「歌舞伎座」が思い浮かびますが、定期的に公演が行われる劇場は、新歌舞伎座、新橋演舞場、国立劇場、浅草公会堂、大阪松竹座、南座、博多座など、さらに劇場以外の文化会館やホールへの巡業まで観劇できる場所は複数存在します。しかし、歌舞伎といえばやはり歌舞伎座。唯一、毎日なにかしらの公演が開催されている別格の存在です。初心者だからこそ、最初は演目の多い歌舞伎座で観劇することをおすすめします。
初めての歌舞伎鑑賞で不安なのは、チケットの入手方法や価格ではないでしょうか。実は歌舞伎座には、格安の当日券が存在します。それが「一幕見席」。歌舞伎座4階に位置する自由席で、通常公演では椅子席約90名、立見約60名の合計約150名の定員です。金額は演目によって異なりますが、安ければ500円程度、高くても2,000円弱というリーズナブルなお値段です。
もう一つ、初心者にとっての不安は、そもそも演目の内容やせりふが理解できないかもしれない、といったことでしょう。しかし、劇場に置かれているチラシには、公演中の歌舞伎のあらすじなどが書いてあります。また、みどころや衣装、音楽、歌舞伎独自の約束事などを舞台の進行に合わせて音声で解説する有料の「イヤホンガイド」も借りることができるため、事前知識に自信がない人でも安心して楽しむことができます。「イヤホンガイド」は公演ごとに同じ演目でも内容がアップデートされるため一度は活用したいアイテムです。

少し慣れてきたら、事前にチケットを購入し、あらかじめ作品のことを調べて観劇するとより楽しめます。現在、歌舞伎の演目は300前後といわれていますが、大きく「時代物」「世話物」に分けられます。
時代物は、江戸時代の庶民からみた昔、平安・鎌倉・室町時代などの公家や武家の話を題材にして作られています。世話物は、江戸時代の庶民にとっての現代劇。町人の生活を題材にして作られたもので、比較的分かりやすいストーリーです。
時代物の代表作には、「歌舞伎十八番」の「暫(しばらく)」や「毛抜(けぬき)」、「勧進帳(かんじんちょう)」などが、世話物の代表作には「青砥稿花紅彩画(あおとぞうし はなの にしきえ)」、通称「白浪五人男(しらなみ ごにんおとこ)」や「梅雨小袖昔八丈(つゆこそで むかしはちじょう)」、通称「髪結新三(かみゆいしんざ)」などがあります。
有名な演目のあらすじは、歌舞伎公式ホームページ「歌舞伎 on the web」などで簡単に調べられるので、興味をもった演目の観劇に行くとよいでしょう。
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親しみやすい歌舞伎の魅力
物語だけなく、美しい衣装や「隈取り」に代表される独特な化粧法、静止した状態で切る見得(みえ)、見得のときに大向こうから発せられる掛け声なども歌舞伎を楽しめる要素です。隈取りは赤が善人、青は悪人などルールがあるので、それを知っておくだけでも面白く見られます。掛け声は、市川家の役者なら「成田屋」、尾上家なら「音羽屋」などと発せられ、歌舞伎の雰囲気を高めてくれます。誰でも発してよいものですが、慣れないうちは遠慮しておきましょう。
歌舞伎座は観劇だけを行なう場所ではありません。食事やお土産も楽しみの一つです。一度は味わいたいのが「幕の内弁当」。その名の通り、歌舞伎の幕間に食べることからその名前が付きました。1階の桟敷席では、事前予約をしておけば「桟敷幕の内」を届けてもらうことができます。
また、歌舞伎座に併設する超高層ビル「歌舞伎タワー」の地下2階の「木挽町広場」は、誰でも足を運べるスペース。お土産屋があったり、祭事やイベントが行なわれていたりします。5階には「歌舞伎座ギャラリー回廊」があり、歌舞伎の面白さを体験できるスペースとして多くの来場者が訪れています。
今でこそ伝統芸能の歌舞伎ですが、もともとは庶民の娯楽。題材にされている色恋や怒り、人情といった人間の本質は、今も昔も変わりません。そういった現代と変わりない目線で見れば、一気に親しみ深いものになるのではないでしょうか。ぜひ一度、本物の歌舞伎を見てみてくださいね。
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