産地に根付いた木のメガネ
。「木製眼鏡」で世界に挑
戦! 神田武蔵のモノづく

産地に根付いた木のメガネ。
「木製眼鏡」で世界に挑戦!
神田武蔵のモノづくり

2019.02.28

東京都国立に拠点を構え、珍しい「木の眼鏡」を制作する木工家・神田武蔵(かんだ・むさし)さん。なぜ木の眼鏡を作ろうと思ったのか、今回は神田さんのモノづくりに込める想いについて伺いました。

「森林たくみ塾」との出会い

小金井公園の雑木林や東京学芸大学の桜並木といった武蔵野の木々を幼い頃から見上げながら育ち、モノづくりが好きで図工の時間が何よりも楽しみだったという神田さん。大学では建築学科へ進みました。

木工家・神田武蔵さん。穏やかな口調で木製眼鏡を作るに至った経緯を語っていただいた

神田 日本の国土の約7割が森林です。昔から家や家具はもちろん、農耕具の握り手など木は生活のあらゆるところに使われていました。自分は団地に住んでいたのですが、いつしか木に囲まれた生活に憧れるようになり、中でも金具を使わずに継手仕口で組み上げていく古民家は床も柱も、見上げれば梁も屋根も木が見えるので、大好きでした。

ーーしかし、いくら白川郷・五箇山の合掌造りの集落が世界遺産に登録されたとはいえ、平成の時代に、伝統工法による木造建築を“新たに”建てるという仕事はそう多くはありません。大学卒業後に就職した材木会社の木造住宅専門部署でも、木材は工場でプレカットされた後に現場に運ばれ、くぎや金具を使って組み上げられ、木の柱や梁は石こうボードで覆われるのが当たり前でした。神田さんは大好きな木に触れる機会の少ない仕事に、少しずつ違和感を抱き始めたといいます。

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ギャラリーに併設された工房の作業机。ノミや彫刻刀、やすりなど、色が変わるほど使い込まれた“職人の命”ともいうべき道具が並ぶ

神田 次第に「これは一生やる仕事ではない」という気持ちが湧いてきました。かといって神社仏閣を作る宮大工も憧れはありつつ自分にはちょっと違うと感じていました。そんな時、知り合いから「森林たくみ塾」を教えてもらったんです。

ーー森林たくみ塾とは飛騨高山にある木工職人の養成所。入塾金を支払えば授業料は無料で、修行期間は2年間ほど。その修行は大変厳しく、その上学校へ通うようなものですから、給料は発生しないといいます。

神田 養成所を出た後は、皆たいてい各自で家具を製作する工房などに入り直して家具職人を目指すのですが、とはいえこの時代。それだけで食べていけるほど甘くはないだろうという不安もありました。

ーーそんな将来の不安定さもあり、同期で入塾した15名のうち、2年間を全うできたのは神田さんを含めて5名しかいなかったそうです。

神田 自分はとにかくすぐに独り立ちしたかったんです。だから家具ではなく、誰もやっていないものを作ろうと考えていました。それで森林たくみ塾にいる間に思い付いたのが、木の眼鏡だったんです。

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シックなダークブラウンの「Train square」。太古から土に埋まっていた貴重な神代欅(じんだいけやき)を使って作られている

木製眼鏡工房・63mokkoの立ち上げ

ーーこうして森林たくみ塾を卒業した2013年、東京都立川市に工房兼ギャラリーを構えて自身のブランド「63mokko(ロクサンモッコー)」を立ち上げました。

神田 今年で7年目に入りますが、まだ商売として成り立つとまでは言えません。しかし、少しずつ協力してくれる眼鏡店も現れてきています。

ーー他にもイベントや百貨店での展示販売、さらには建築家とのコラボレーションといったように露出の機会が増え、神田さんは一歩ずつ世の中に「木の眼鏡」のある生活を広めています。

木の話になるとその穏やかな口調が熱を帯び、職人としてのこだわりが垣間見えた

ーーあまり一般的でないとはいえ、これまで日本や海外で木製眼鏡が全く作られてこなかったわけではないそうです。しかし知名度は極めて低く、小規模な市場であることに変わりはありません。神田さんは木製眼鏡のどこに魅力を感じたのでしょうか。

神田 世界では、木の種類だけで6万種以上あるといわれています。赤や紫、黒など、色や艶も木の種類の数だけ豊富です。そのため、たとえ全く同じフレームのカタチでも、使っている木が違えば眼鏡をかけた時の印象が異なります。接客業や営業職の方から、これをきっかけにお客様との話が弾んだと言われたこともあります。

ーー木製眼鏡は、かけた人の印象を柔らかくしてくれます。木の温もりが生み出す優しい表情。こうした表情は明らかに他の眼鏡にはないもので、「木の眼鏡をかけている」という印象を見る人に強く与えます。

そもそも「伊達眼鏡」という言葉があるように、本来視力の矯正用だった眼鏡は今ではファッションアイテムの一つとして広く知られています。ファッションですからなおさら新しい素材、とりわけ「木」という私たちの生活になじみ深い素材を使った眼鏡がもっと使われるようになってもおかしくはありません。一方で、これまで世の中に流通しなかった理由は、金属やプラスチック製の眼鏡と違い、木は“曲げにくい”ことにあります。

ギャラリーに陳列されるフレーム。同じカタチのフレームでも、使用する木の種類によって全く違う印象に

神田 金属やプラスチックであれば顔の幅に合わせてその場でつる(耳からこめかみにかけて伸びる眼鏡を支えるパーツのこと。テンプルとも)の部分を広げられますが、木の場合はレンズを入れる枠と耳にかけるつるの間にあるヒンジ部分の木を削りながら調整しなければなりません。つるの長さも高さも人によって変わりますから、それに合わせようとすると、どうしてもオーダーメイドになってしまうんです。

ーーオーダーメイドのための採寸をしてから完成するまでは、およそ1〜2カ月。これをもっと短縮するために、現在神田さんは「自分のところでフィッティングができないか」と協力を申し出てくれた眼鏡屋さんと共に制作工程の見直しを行なっています。これまで一人でやってきたことを、協力してくれる人と分担できるようになれば、それだけお客様にいち早く「木の眼鏡」を届けることができます。

神田 商売としてきちんと成り立つようになれば、作ってみたいという人も現れるでしょうし、弟子も取れるのではないでしょうか。

ーーいずれは弟子を取り、次の世代へと「木の眼鏡」の魅力を届けたいと神田さんは語ります。

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世界の“樹を纏う”という壮大な夢に向かって

さらに弟子ができれば、神田さんの夢も実現しやすくなるといいます。その夢を神田さんは63mokkoのホームページで「I have a dream」として公開しています。

ギャラリーに入ると、63mokkoのコンセプト“樹を纏う”が収められた額が。額縁も工房で制作した高級感と落ち着きのある仕上がり

タイにはタガヤサンがある。フィリピンにはカマゴンがある。オーストラリアにはビーフウッドがある。フランスにはシカモアがある。ベラルーシにはマスールバーチがある。カメルーンにはベリがある……。ホームページには神田さんが調べた、その国々固有の30種以上の木々が手書きでつづられています。

神田 世界中を回って、その土地その土地の木で眼鏡を作りたいんです。弟子にフィッティングや制作を任せられるようになれば、自分は日本を留守にできるので海外へ木を探しに行けます。

白を基調とした外観の工房兼ギャラリーには、熱くそして温かい職人の想いが詰まっていた

ーー例えば桜の木を使った眼鏡の中には、地元・国立の有名な桜並木で剪定されて処分されるはずだった木を活用して制作したものもあります。

神田 この眼鏡の場合は「国立の桜の木の眼鏡」というわけです。こんな風に、国内でも海外でも、産地がはっきりわかる眼鏡をたくさん作りたいんです。

ーー「想い」を「カタチ」に。世界中の木々で眼鏡を作るという夢を掲げた神田さんの挑戦は、まだまだ始まったばかりです。

取材協力=神田武蔵(63mokko)

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