世界に誇る東京最古のおに
ぎり専門店「浅草 宿六」
三浦洋介のモノづくり
世界に誇る東京最古のおにぎ
り専門店「浅草 宿六」三浦
洋介のモノづくり

2019.10.03

手軽に食べられる携行食として、古の時代から日本人の生活に寄り添ってきた「おにぎり」。家庭の味として親しまれてきましたが、今では出掛け先で簡単に買えるファストフードとして、また居酒屋など外食の一品料理としても人気があります。そんな国民食・おにぎりの専門店を、東京で60余年にわたって営んできた名店が「浅草 宿六(以下、宿六)」です。

東京で最も歴史の長いおにぎり専門店として愛され続け、あの『ミシュランガイド東京2019』では、ビブグルマン(価格以上の満足感が得られる料理/良質な食材で丁寧に仕上げており、5,000円以内で楽しめる)部門にも選ばれました。今回は、そんな宿六の伝統を守り続ける3代目店主・三浦洋介さんにお話を伺いました。

家計を支えるために始まった「宿六」

宿六があるのは言問通り沿い。浅草寺や浅草花やしきの喧噪から少し離れた落ち着いたエリアで、赤地の看板と真っ白な暖簾が目印です。店内には高級寿司店のようなカウンターがあり、ガラスケースの中に具材が並べられていました。

三浦 (ガラスケースに入れているのは)お客さんが具をつまみ食いしないように、だね。昔はしょっちゅうつまみ食いされてたらしくて、工夫を凝らした結果がこの形。まあ、具材が乾かないようにって意味もあるんだけど、一番の理由はつまみ食い防止なんですよ(笑)。

“つまみ食い防止”のために設置されたガラスケース。厳選された具材に目移りしながら「何を食べよう」と考える時間もまた美味しいひとときだ

――このカウンター、実は創業当時から使われてきたもの。厨房の壁に飾られたお品書きの「葉唐辛子」「しらす」「山ごぼう」「おかか」と並ぶ具材も、60年以上ほとんど変わっていません。

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宿六を始めたのは、三浦さんのお祖母様。当時、働き者ではなかったお祖父様に代わって家計を支えるため、誰でも気軽に食べることができ、調理の専門的な知識がなくても始められるおにぎり専門店を始めたそうです。宿六とは昔の言葉で、「宿(家)にいるろくでなし」のこと。“まったく仕方のない宿六だね”、そんな風に半ば親愛の情を込めて使われていた言葉です。

軽妙なトークで当時の記憶を振り返る3代目・三浦洋介さん。お祖父様との思い出を快活な笑いとともに語ってくれた

三浦 祖父は確かに働き者じゃなかったかもしれないけど、俺にはいい思い出しかないですね。ろくでなしほど孫には優しい(笑)。小学校から帰ると、まず連れ出してくれるのが立ち飲みできる酒屋、いわゆる角打ちでした。そこで祖父は酒を、俺はオレンジジュースを頼むんです。当時の宿六は17時スタートで、前半は祖母が、後半はひとしきり飲み歩いた後の祖父が店に立っていました。カウンターの傍らに一升瓶を置いて飲みながら、これがまた気持ち良さそうにおにぎりを握るんですよ。

――下校後、夕飯までのつなぎとして食べるおやつは、いつもお祖母様の握ったおにぎりだったそう。「生まれたときから職業訓練校に通っているようなものなんで、そこは飲食店としてアドバンテージなんでしょう。ただ、おにぎり食ってただけですけど(笑)」と控えめに自らの強みを語ります。

おにぎり専門店ならではの名言「しみじみと 心のかよう にぎりめし」。創業当時から額縁に入れられ、大切に飾られている

その味の伝統はお祖母様から2代目のお母様へ、お母様から三浦さんへと脈々と受け継がれてきました。そんな三浦さんが店を引き継いだのは今から10年ほど前。当時は今ほどの繁盛店ではありませんでした。そもそも浅草を訪れる観光客自体が少なかったとか。当時、日本人にとって浅草は“古びた観光地”でしかなく、既に飽きられていたと三浦さんは振り返ります。

浅草という街の昔と今を分析する三浦さん。変わっていく地元の景色に、変わらない宿六の意義を考えていた

三浦 浅草に外国人観光客が多く訪れるようになり、古いものと新しいものがミックスした街の景観に面白さを見出してくれたことで状況が変わりました。彼らがSNSに投稿したことで日本人も影響を受け、「浅草って面白いんじゃない?」と、逆輸入的に日本人の観光客が増えたんです。宿六としても『ロンリープラネット』という英語圏向けの旅行ガイドに名前が載ったことで、外国人観光客が来るようになりましたね。そしてミシュランガイドへの掲載で日本人も激増。0からのスタートだから勝手に右肩上がりなんですよ(笑)。

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「宿六」が追求する“おにぎりの価値”

創業当時からの不動の人気はやはり「さけ」。三浦さんが厨房で手早く握ると、竹ざるの上に握り立てのおにぎりとお新香を乗せて提供されます。おにぎりは一つでかなりのボリュームがあり、海苔は片側だけを巻き、もう片側は巻かずにピンと立たせた装い。作り立てであることが一目で分かります。

パリッという小気味よい食感の海苔と、羽釜で炊いたふわふわの白米が見事なコントラスト。海苔からはほのかに磯の香りがしますが、決して白米の風味を邪魔していません。具はかなり大きく、味も厳選された材料の素晴らしさを感じさせるものですが、主張は控えめ。おにぎりの主役である白米の美味しさを引き立てています。

三浦 イベントなどではキャビアを入れた一つ7,000円のおにぎりなど奇抜なものを作ることもあるのですが、店の定番メニューに加えようとは思わないですね。誰でも食べられる手頃な値段で、しかも美味しいところに“おにぎりの価値”がある。私の祖母も母も、利益を追求せず、実直に商売してきたからこそ今があると思っています。

創業当時からほとんど変わっていないというお品書き。白米や海苔との相性を考え、最も相性の良い具材が厳選されている

――実は三浦さん、おにぎりの握り方については、先代から一切の指導を受けていないそう。小学生の頃に食べたおにぎりの記憶を頼りに、「あの味を再現するには、もっと美味しくするには、どう炊いたら良いのか、どう握ったら良いのか?」と自分なりに研究を重ねて今に至っているそうです。

三浦 祖母や母が握っていたものとは、正直、味が違っていてもいいと思っています。どちらにしても、今の自分にできる最善を尽くすだけですから。子供の頃から食べているので、お手本は自分の舌が覚えています。

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おにぎり専門店として受け継いだ想い

冗談を交えて話すことが多く、店のこだわりを殊更に語ることを粋としないユーモアな三浦さん。最後に先代から「受け継いだもの」を伺いました。

終始笑顔でインタビューに応えてくれた三浦さん。胸元に光る宿六のの二文字は、3代目としての心意気と決意を表しているようだった

三浦 店もそうですし、人もそうですし……たくさんありますね。でも一番大切なのはおにぎり屋としての“スピリット”なんでしょうね。これがないと良いものを提供できませんから。

――おにぎり屋としての“スピリット”。そう語る三浦さんの表情は、笑顔の中にも真剣な眼差しで、これからの宿六を背負う“職人魂”が垣間見えていました。

取材協力=三浦洋介(おにぎり浅草宿六)

 

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